UAEでTRC(税務居住証明書)を取得したいと考えても、申請すればすぐ発行されると受け取る人は少なくありません。
実際には、TRCはUAEの税務上の居住を証明する書類であり、租税条約の適用や海外所得の取り扱いに関わる重要な証明です。
一方で、取得には居住要件だけでなく、申請区分や提出書類、税務登録の状況によって準備内容が変わります。
取得できるかどうかだけでなく、どの目的で使うのかを前提に手続きを進めることが重要になるでしょう。
本記事では、
を解説します。
TRCとは、Tax Residence Certificate(税務居住証明書)の略称です。
UAE連邦税務当局(FTA:Federal Tax Authority)が発行する公式書類で、申請者がUAEの税務上の居住者であることを証明します。
なお、名称について注意が必要です。一般的な資料では「Tax Residency Certificate」と表記されることもありますが、UAE当局の公式用語は「Tax Residence Certificate」です。英文書類を作成する際は後者を使用してください。
TRCには大きく2つの種類があります。
| 種類 | 対象 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 個人向けTRC | UAE居住ビザを持つ個人 | 二重課税防止条約の適用申請、非居住者の証明 |
| 法人向けTRC | UAEに設立された法人・フリーゾーン企業 | 租税条約の適用、海外取引の税務コンプライアンス |
TRCが重要視される最大の理由は、二重課税防止条約(租税条約)の適用に必要な書類だからです。
租税条約とは、2国間で締結された条約で、同じ所得に対して両国から二重に課税されることを防ぐことを目的としています。
UAEは日本を含む90カ国以上と租税条約を締結しており、条約の恩恵を受けるためには「自分がUAEの税務上の居住者である」と証明する書類が必要です。その証明書がTRCです。
TRCを提出することで、条約上の居住者(treaty resident)として認定され、配当・利子・ロイヤリティなどへの軽減税率が適用されます。
TRCが活用される最も代表的な場面が、日本の税務当局や金融機関に対して「自分はUAEの居住者である」と証明するときです。
日本の証券会社・銀行・税務署に対して非居住者ステータスを説明する際、TRCは有力な証拠書類になります。
特に、日本の金融機関が「非居住者口座」の扱いを判断する場面では、居住実態を示す書類として提出を求められることがあります。
ただし、TRC=非居住者の証明書ではない点には注意が必要です(後述)。
日本株・日本国債・日本の投資信託などから得られる配当や利子には、非居住者であっても一定の源泉税が課されます。
日本・UAE租税条約を適用すれば、この源泉税率を軽減できるケースがあります。
たとえば、日本の上場企業株式の配当に通常20.315%の源泉税がかかるところ、租税条約の適用で軽減を申請する際には、TRCの提出が証券会社や税務署から求められます。
UAE国外の取引先・金融機関・行政機関とのビジネスでも、TRCが必要になる場面があります。
特に、グローバルにビジネスを展開している法人・個人にとっては、TRCは税務コンプライアンス上の重要書類となっています。
個人がTRCを取得するためには、UAE内での一定の滞在実績が必要です。2024年10月にFTAが新ガイドラインを公表し、以下の2段階の基準が明確化されました。
①183日以上の滞在:条約目的TRCの取得対象
UAE滞在日数が183日以上の場合、租税条約適用のためのTRC(条約目的TRC)を申請できます。これが標準的なTRC取得の要件です。
②90日以上183日未満の滞在:国内目的TRCの取得対象
滞在日数が90日以上183日未満の場合でも、以下の要件を満たせば国内目的のTRCを申請できます。
なお、滞在日数は入出国記録(パスポートのスタンプ)をもとに算出されます。国際線の乗り継ぎのみでの通過は原則として算入されません。
法人がTRCを申請するためには、単にUAEに設立されているだけでは不十分です。
実態的な事業活動を行っていることが求められます。
オフショア会社(ラス・アル・ハイマ等の国際ビジネス会社)の場合: 基本的にTRCの対象外です。オフショア会社はUAE国内での事業活動を前提としていないため、居住証明の要件を満たせないケースがほとんどです。
申請に必要な書類は、滞在日数の区分(183日以上か90〜183日か)によって異なります。
共通書類(いずれの区分でも必要)
| 書類 | 備考 |
|---|---|
| パスポートのコピー | 有効期限内のもの |
| エミレーツID(Emirates ID)のコピー | 有効期限内のもの |
| 入出国記録 | パスポートのスタンプ画像など |
| UAE居住ビザのコピー | 有効期限内のもの |
183日以上滞在の場合に追加で必要な書類
| 書類 | 備考 |
|---|---|
| 雇用契約書または給与証明書 | 会社員の場合 |
| トレードライセンス(事業許可証) | 個人事業主・フリーランスの場合 |
吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。
TRCの申請はすべてオンラインで完結します。UAE連邦税務当局が運営するEmaraTax(エマラタックス)ポータル(tax.gov.ae)から申請します。
申請の流れ
審査から発行までの期間は通常5〜10営業日程度ですが、混雑時や書類不備があった場合はさらに時間がかかることがあります。
発行されたTRCの有効期間は1年です。継続して利用する場合は、毎年更新申請が必要です。
| 申請区分 | 申請手数料 | 発行手数料 |
|---|---|---|
| 個人(条約目的) | AED 50(約2,000円) | AED 500(約20,000円) |
| 個人(国内目的) | AED 50(約2,000円) | AED 500(約20,000円) |
| 法人 | AED 50(約2,000円) | AED 1,750(約70,000円) |
※ 1AED=約40円で換算。為替レートによって変動します。 ※ 手数料は変更される場合があります。申請前にFTA公式サイトで最新情報を確認してください。
TRCを取得しても、日本とUAEの租税条約が自動的に適用されるとは限りません。
条約の適用では、「liable to tax(課税義務を負う者)」に該当するかが問題になるためです。
この点で注意したいのが、UAEでは個人所得税が課されていないことです。
そのため、個人はUAEで所得税の課税対象に当たらないとして、日本側で条約上の居住者性が争点になるケースがあります。
その場合、TRCを保有していても、日本とUAEの租税条約に基づく軽減措置が認められないおそれがあります。
源泉税の軽減申請などを予定している場合は、条約適用の前提を含めて、国際税務に詳しい専門家へ事前に相談してください。
「TRCを取得した=日本の税務上の非居住者になった」という誤解は非常に多く見られます。しかし、これは正しくありません。
TRCは「UAEが発行した居住実態の証明書」です。一方、日本の税務上の「非居住者」かどうかは、日本の所得税法の基準で判断されます。
日本の税務当局は、以下のような総合的な事実関係をもとに居住ステータスを判断します。
TRCは「UAE側での居住実態を示す証拠の一つ」にはなりますが、それだけで日本側の非居住者認定が保証されるわけではありません。
あくまで証拠書類の一つとして活用するものです。
TRCは重要な書類ですが万能ではありません。
日本の税務リスクを適切に管理するには、TRC取得と並行して以下を確認・対処する必要があります。
申請手続き自体はオンラインで完結しますが、審査では実際の滞在実績・生活実態が厳しく確認されます。
書類が不十分だったり、実態が伴わないと判断されたりした場合は、申請が却下されます。書類は事前にしっかり準備しましょう。
1年間です。継続して利用する場合は、毎年EmaraTaxポータルから更新申請を行う必要があります。
書類に不備がなければ、通常5〜10営業日程度です。繁忙期や追加書類の提出が必要な場合は、さらに時間がかかることがあります。
租税条約の適用手続きなど期限がある申請は、余裕をもって準備してください。
原則として可能です。ただし、実態的な事業活動があることが前提です。
従業員なし・実際の営業実態なしのペーパーカンパニーの場合、審査で問題になる可能性があります。
基本的に対象外です。
オフショア会社(RAK ICC等の国際ビジネス会社)はUAE国内での事業活動を前提としないため、TRCの要件を満たすことが難しいとされています。
UAE居住者証明書(TRC)は、租税条約の適用や居住実態の証明に使われる重要書類です。
一方で、TRCを取得しただけで日本の税務上の扱いまで決まるわけではなく、条約適用や非居住者判定は別途検討が必要になります。
申請では、個人・法人の区分、滞在日数、必要書類、更新時期を押さえたうえで進めてください。
さらに、日本側の滞在日数や生活の本拠、住民票の扱いまで含めて見ておくことが、税務リスクを抑えるうえで重要です。
判断に迷う場合は、UAEと日本の両方に関わる国際税務に詳しい専門家へ早めに相談しましょう。
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