UAEでは相続税が課されなくても、日本ではドバイの不動産や海外預金を含む財産が相続税の対象になることがあります。
UAE側の承継ルールと日本側の課税ルールは役割が異なるため、同じ「相続」として一括で考えると判断を誤りやすいでしょう。
UAEでは非ムスリム向けの相続ルールが明文化されるなど制度の見直しが進んでいます。
一方、日本では相続人や被相続人の住所、国籍、居住歴によって、国外財産まで課税対象が広がる仕組みです。
本記事では、
- UAE相続法と日本の相続税の違い
- 日本で課税される範囲
- 海外資産承継で見落としやすい注意点
を解説します。
UAE相続法と日本の相続税の違い

UAEの相続ルールと日本の相続税は、同じ「相続」でも役割が異なります。
ここでは、両者の違いを解説します。
UAE相続法は承継ルールを定める制度
UAE相続法で確認すべきなのは、だれが財産を引き継ぐのか、どの手続きで名義を移すのかという承継のルールです。
非ムスリムについては、2023年施行の連邦民事身分法により、相続や遺言に関する枠組みが明文化されました。
以前のように「遺言がなければ一律にシャリーア法で決まる」と単純には捉えにくくなっています。
宗教、居住地、遺言の有無を分けて確認した方がよいでしょう。
日本の相続税は課税範囲を定める制度
日本の相続税で確認すべきなのは、「だれに相続税がかかり」「どの財産まで課税対象に入るのか」という点です。
相続人が海外に住んでいる場合でも、国籍や被相続人の属性、死亡前の居住歴によっては、国外財産まで相続税の対象になります。
日本の相続税は、承継手続きを決める制度ではありません。
課税範囲を定める制度として捉えると、全体像をつかみやすくなります。
承継ルールと課税ルールは分けて考える
承継ルールと課税ルールは、UAE
UAEと日本が同じ基準ではありません。
UAE側で遺言や承継人の扱いが定まっていても、日本では国外財産を含めて課税対象が広がることがあります。
日本で課税関係を把握できても、UAE側の手続きが整っていなければ承継は進みません。
「UAEでの承継」と「日本での課税」を切り分けておくと、判断のぶれを抑えやすくなります。
UAEの相続ルール

UAEでは、宗教や遺言の有無によって承継の進め方が分かれます。
ここでは、日本との違いが出やすいUAE側のルールを紹介します。
シャリーア法と非ムスリム向け制度
UAEの相続では、ムスリムと非ムスリムで前提になるルールが異なります。
シャリーア法とは、イスラム教の教えを基礎とした法の考え方です。
ムスリムの相続ではこの考え方が土台になりますが、非ムスリムについては別の枠組みが整えられてきました。
近年は、非ムスリム向けの民事身分法が施行され、以前よりも本国法や遺言の位置づけを確認しやすくなっています。
「UAEの相続はすべてシャリーア法で決まる」とは言い切れないため、被相続人の属性に応じて適用ルールを確認してください。
遺言の有無で変わる承継の流れ
遺言の有無は、承継手続きの進み方に大きく影響します。
遺言があれば、だれに何を引き継がせるのかを示しやすくなり、手続きの出発点も定めやすくなるでしょう。
反対に、遺言がない場合は、法定の相続ルールや裁判所での確認が重くなりやすく、相続人の範囲や持分をめぐって時間がかかることがあります。
DIFC遺言(DIFC Wills)は、非ムスリム向けに遺言を登録できる制度のひとつです。
UAEで資産を持つなら、日本の遺言だけで足りると考えず、現地で使える形式まで確認した方がよいでしょう。
資産の種類ごとに手続きが違う
UAEで相続する財産は、すべて同じ流れで引き継げるわけではありません。
資産の種類ごとに、窓口や必要書類が異なります。
- 不動産:土地局での名義変更
- 預金:金融機関ごとの確認・承継手続き
- 法人持分:定款や登記の変更
銀行口座は、相続開始後に利用が制限されることがあります。
承継を進めるには、裁判所の検認手続きや承継命令が必要になる場面もあり、手続きが長引くケースもみられます。
資産をひとまとめにすると、こうした違いを見落としやすくなるでしょう。
不動産、預金、法人持分に分けて把握しておくと、承継の流れを組み立てられます。
相続の際に日本で課税される条件

日本では、海外にある資産も相続税の対象になります。
ここでは、日本で課税される範囲を解説します。
被相続人と相続人の住所で課税範囲が分かれる
日本の相続税では、財産がどこにあるかだけでなく、被相続人と相続人がどこに住んでいるかも重要です。
相続人が海外に住んでいて日本に住所がない場合でも、被相続人と相続人の双方について、日本国籍の有無や相続開始前10年以内の住所歴を合わせて確認する必要があります。(※)
海外に住んでいるだけで日本の相続税が外れるとは言えません。住所、国籍、居住歴をまとめて確認してください。
※出典:国税庁「No.4138 相続人が外国に居住しているとき」(nta.go.jp)
【関連記事】UAE居住者証明書(TRC)の使い方と取得について
海外不動産も相続税の対象
ドバイの不動産を相続した場合でも、日本で相続税がかかることがあります。
日本の相続税は国内財産だけを基準に決まる制度ではなく、納税義務の区分によっては国外財産まで課税対象が広がるためです。
海外にある不動産は国外財産として扱われるため、「海外不動産だから対象外」とは考えにくいでしょう。
まずは、自分がどの納税義務に当たるかを確認してください。
UAEで無税でも日本では課税される
UAEで相続税が設けられていないことと、日本で相続税がかからないことは同じ意味ではありません。
UAE側で承継手続きを進められても、日本側では相続人や被相続人の条件に応じて国外財産まで課税対象が広がります。
海外資産を持つ人は、「現地で無税」という印象だけで判断すると、日本での申告や納税を見落としやすくなります。
UAEの制度と日本の相続税は分けて確認しておきましょう。
【関連記事】ドバイの不動産を相続したときに日本の相続税と資産継承の考え方
制度の違いでずれやすいポイント

UAE側の承継手続きと日本側の相続税申告は、同時に進める場面が出てきます。
ここでは、ずれやすいポイントを解説します。
UAE側の手続きと日本側の申告は同時に進む
海外資産を相続する場面では、UAE側で名義変更や承継手続きを進めながら、日本側では相続税の申告準備を並行して進める必要があります。
役割の違いを並べて確認しておくと、全体像をつかみやすくなります。
| 項目 | UAE(承継手続き) | 日本(相続税申告) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 名義変更(所有権移転) | 相続税の申告・納税 |
| 確認する内容 | 相続人・遺言・持分 | 課税対象・評価額 |
| 根拠 | 民事身分法・遺言制度 | 相続税法 |
| 執行の主体 | ドバイ土地局(DLD)・現地裁判所 | 管轄の税務署 |
| 課税 | なし | あり |
| 完了の基準 | 名義変更の完了 | 申告・納税の完了 |
| 期限 | 明確な期限なし | 原則10か月以内 |
UAE側の手続きが完了していても、日本側の申告や納税が終わっていなければ、相続対応が完了したとは言えません。
両方の流れを並行して確認してください。
名義変更が終わっても申告は必要
UAE側で不動産の名義変更や遺言の執行が進んでも、それだけで日本側の確認が終わるわけではありません。
日本では、相続人や被相続人の住所、国籍、居住歴によっては、国外財産を含めて相続税の対象が広がります。
承継手続きが終わった後に税金を考えるのでは遅れやすいため、名義変更と並行して日本側の申告要否を確認してください。
DIFCの遺言登録やプロベートの仕組みはUAE側の承継を進めるための制度であり、日本の相続税の課税範囲そのものを決める制度ではありません。
評価額の差が税負担を左右する
相続税の負担感は、財産の評価方法によって大きく変わります。
日本国内の土地は相続税評価額が時価より低く出る場面がありますが、海外不動産では時価を基礎に検討する流れになりやすく、同じ金額帯の資産でも評価額が重く見えるでしょう。
ドバイの不動産では、現地の評価証明、売買事例、鑑定資料などを基に金額を確認し、日本円への換算も行う必要があります。
為替が少し動くだけでも日本円換算額は変わるため、取得時の感覚だけで税負担を見込まない方がよいでしょう。
海外資産承継で見落としやすい注意点

制度を理解していても、書類や資産の持ち方によって承継の進め方は変わります。
ここでは、手続き前に押さえておきたい注意点を紹介します。
日本側とUAE側で必要書類が違う
相続手続きでは、日本とUAEで求められる書類の種類や形式がそろっていません。
提出先ごとに必要書類を分けて確認する必要があります。
日本側で確認する書類
- 戸籍
- 遺言書


