「不動産トークン」という言葉を、ニュースやSNSで見かけたことはないでしょうか。
「言葉は聞くが、何のことか分からない」
「普通の不動産投資と何が違うのか」
「新しい話なので、うますぎる話ではないかと身構えてしまう」
初めて聞いたときに、こう感じる方は多いと思います。ブロックチェーンという言葉が絡むため、内容が入ってきにくいのも無理はありません。
先に結論をお伝えします。不動産トークンと呼ばれているものは、大きく2つの型に分かれます。ひとつは不動産ファンドの持分をデジタル化したもので、日本で流通しているのはこちらです。もうひとつは不動産の権利証そのものをデジタル化したもので、ドバイで実際に動き始めています。
この2つは、名前が似ているだけで中身が違います。同じものだと思って読み進めると、混乱します。
この記事では、まず言葉の意味を整理します。そのうえで日本の仕組み、ドバイで始まった仕組みの順に説明し、最後に両者の違いをまとめます。特定の商品をすすめるものではなく、制度の解説として書いています。
不動産トークンとは何か

まず言葉を整理します。不動産トークンは正式な法律用語ではなく、いくつかの仕組みをまとめて指す通称として使われています。
関連する言葉を並べると、次のようになります。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| ブロックチェーン | 取引の記録を分散して保存し、後から書き換えにくくする技術 |
| トークン | ブロックチェーン上に記録される権利のデジタルな単位 |
| セキュリティトークン(ST) | 有価証券としての性質を持つトークン |
| STO | セキュリティトークンを発行して資金を集めること |
ここでは、不動産トークンの基本を3つの視点で解説していきます。
不動産の権利をデジタルに記録する仕組み
不動産トークンの土台にあるのは、ブロックチェーンという技術です。取引の記録を1か所にまとめず、複数の場所に分散して保存することで、後から書き換えにくくする仕組みを指します。
その上に記録される権利のデジタルな単位が、トークンです。不動産トークンであれば、記録されるのは不動産に関する権利ということになります。
技術の細かい仕組みまで理解する必要はありません。押さえておきたいのは、誰がいつ何を取得したかという記録が残り、後から書き換えにくい形で保存される、という点です。
大きく2つの型に分かれる
ここがこの記事で最も大切な部分です。不動産トークンと呼ばれるものには、性質の異なる2つの型があります。
ひとつは、不動産ファンドの持分をトークンにする型です。投資家が直接その建物を所有するのではなく、その不動産を保有するファンドの持分を持ちます。日本で流通しているのはこちらで、不動産ST(セキュリティトークン)と呼ばれます。
もうひとつは、不動産の権利証そのものをトークンにする型です。政府機関が発行する登記の記録を分割し、その持分をトークンとして扱います。ドバイで動き始めているのはこちらです。
何をデジタル化しているのかが違うため、拠り所になる制度も、買える人の範囲も変わってきます。以降の章は、この2つを分けて読んでください。
少額から持てるようになる
2つの型に共通する特徴が、不動産を分割して持てるようになることです。
これまで一棟のマンションやビルは、まとまった資金がなければ手が出せませんでした。分割してトークンにすることで、その一部だけを持つことができるようになります。
分割の単位や最低金額は、仕組みごとに、また案件ごとに異なります。共通しているのは、これまで参加できなかった規模の資金でも関われるようになった、という点です。
日本の不動産トークンは「不動産ST」と呼ばれる
日本で流通している不動産トークンは、不動産ST(セキュリティトークン)と呼ばれます。デジタル証券という言い方をされることもあります。
新しい言葉ですが、扱いは法律で整理されています。ここでは日本の仕組みを3つの視点で解説していきます。
法律上は有価証券として扱われる
不動産STは、金融商品取引法上の有価証券として扱われます。
2020年5月に施行された改正金融商品取引法で、ブロックチェーンなどを使って移転できる権利が「電子記録移転有価証券表示権利等」として整理されました。これによって、セキュリティトークンの法律上の位置づけが明確になっています。
有価証券である以上、取り扱えるのは登録を受けた金融機関に限られます。誰でも自由に発行したり、売買を仲介したりできるものではありません。
新しい技術を使った仕組みではありますが、法律の枠組みの外にあるわけではない、という点は押さえておきたいところです。
REITや現物の不動産投資とは扱いが違う
不動産に関わる投資には、ほかにも選択肢があります。位置づけの違いを整理すると、次のようになります。
| 不動産ST | J-REIT | 現物の不動産 | |
|---|---|---|---|
| 何を持つのか | ファンドの持分 | 投資法人の投資口 | 不動産そのもの |
| どこで買うのか | 取り扱う金融機関 | 証券取引所 | 不動産会社などを通じて |
| 小口化 | されている | されている | されていない |
| 対象になる不動産 | 単一または少数 | 多数に分散 | 自分が選んだ物件 |
J-REITは証券取引所に上場しており、株式と同じように市場で売買されます。現物の不動産は自分の名義で登記して持ちます。不動産STはその中間にあたる位置づけです。
どれが優れているという話ではなく、持つものと買う場所が違う、という整理で理解するのが分かりやすいと思います。
取引できる場所は限られている
不動産STは、取り扱っている金融機関を通じて売買します。すべての証券会社が扱っているわけではありません。
流通の仕組みが立ち上がってから日が浅く、売買できる場所と機会は現時点では限られています。買ったあとに手放したいと思ったとき、いつでも相手が見つかるとは限らない、という状態です。
なお、この分野の統計は公開されています。日本証券業協会と日本STO協会が、電子記録移転有価証券表示権利等の取扱状況を毎月まとめて公表しています。発行の状況を自分で確認したい場合は、こうした公式の統計を見るという方法があります。
ドバイでは権利証そのものがトークン化されている

海外に目を向けると、日本とは違う型の取り組みが動いています。ドバイでは、不動産の権利証そのものをトークン化する仕組みが、政府主導で始まっています。
ファンドの持分ではなく、登記の記録そのものを分割している点が、日本の不動産STとの大きな違いです。ここでは、ドバイで起きていることを4つの視点で解説していきます。
土地局が公式に発行する権利証を分割する
ドバイで不動産の登記を管轄しているのは、土地局(DLD=Dubai Land Department)という政府機関です。この土地局が、自ら発行する権利証(Title Deed)にトークン化を適用しています。
UAE政府の発表では、土地局は中東で初めてトークン化を導入した不動産登記機関だと説明されています。原文では「DLD as the first real estate registration entity in the Middle East to implement tokenisation」と記載されています。
民間の会社が独自に証券をつくって売っているのではなく、公的な登記そのものに紐づいている。ここが日本の不動産STとの決定的な違いです。
ひとつ注意しておきたい点があります。ブロックチェーンを記録に使うことと、暗号資産で支払うことは別の話です。日本語のニュースでは特定の暗号資産の名前を冠した見出しを見かけますが、土地局はパイロット段階について「All transactions are carried out exclusively in UAE Dirhams, with no use of cryptocurrencies during the pilot phase」と説明しています。取引はすべてUAEディルハム建てで行われ、暗号資産は使われていません。
2025年3月にパイロットが始まった
土地局がこのプロジェクトのパイロットを発表したのは、2025年3月19日です。不動産イノベーション施策「REES」の配下に位置づけられています。
進めているのは土地局だけではありません。仮想資産規制庁(VARA)とDubai Future Foundation が連携しています。2025年5月の発表では、これにUAE中央銀行が加わった体制が示されました。
上位の計画としては、ドバイの不動産分野の長期戦略に位置づけられています。トークン化された資産の価値は、2033年までにAED 600億に達し、ドバイの不動産取引の7%を占めるという見通しが示されています。取引に占める割合であり、市場全体に占める割合ではない点に注意してください。
1分58秒で完売した案件がある
実際に取引も行われています。数字を追うと、次のような経緯です。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年5月25日 | PRYPCO Mint というプラットフォーム経由で、中東初のトークン化案件が開始 |
| 2025年5月29日 | 第1号案件の実績が公表。224名が投資、44の国籍、平均投資額はAED 10,714 |
| 2025年6月11日 | 第2号案件が1分58秒で完売。149名が投資、35の国籍 |
第1号案件については、投資家の70%がドバイの不動産に投資するのが初めてだったと発表されています。分割して持てるようになったことで、これまで参加していなかった層が入ってきたことを示す数字です。
待機している人の数も公表されています。2025年5月29日時点で6,000件を超え、2025年6月11日時点では10,700名を超えたとされています。
なお、パイロット段階の銀行パートナーには Zand Digital Bank が指定されています。
2026年2月から再販ができるようになった
新しい仕組みでは、買ったあとに手放せるかどうかが問題になります。この点が2026年に動きました。
2026年2月9日の発表で、土地局はプロジェクトの第2段階を開始し、2026年2月20日から二次流通、つまり再販ができるようになると示しました。原文では「enabling the resale of approximately 7.8 million real estate tokens」と記載されており、およそ780万トークンが再販の対象になります。
パイロットの段階では、買ったあとに売る手段が用意されていませんでした。そこから一歩進んだ形になります。
なお、この段階について土地局が公表しているのは、仮想資産規制庁(VARA)および戦略的パートナーとの連携という表現までで、パートナーの社名は公表されていません。報道では特定の企業名が挙がっていますが、公式発表に基づく情報ではないため、この記事では社名を挙げていません。
日本の不動産STとドバイのトークン化は何が違うのか
ここまで見てきた2つを、あらためて並べます。名前は似ていますが、中身はかなり違います。
| 日本の不動産ST | ドバイのトークン化 | |
|---|---|---|
| トークンにしているもの | 不動産ファンドの持分 | 不動産の権利証そのもの |
| 拠り所になる制度 | 金融商品取引法 | 土地局の登記と仮想資産の規制 |
| 記録の主体 | 発行体と取扱金融機関 | 土地局(政府機関) |
| 買える人 | 取扱金融機関を通じた投資家 | UAE居住者に限られている |
| 売買する場所 | 取り扱う金融機関 | 専用のプラットフォーム |
ここでは、違いを3つの視点で解説していきます。
トークン化しているものが違う
最も根本的な違いはここです。
日本の不動産STがトークンにしているのは、不動産を保有するファンドの持分です。投資家とその建物の間には、ファンドという器が挟まっています。
ドバイがトークンにしているのは、不動産の権利証そのものです。政府機関が管理する登記の記録を分割し、その持分を持ちます。器を挟まず、登記に直接ひもづいている形です。
この違いが、次に説明する制度の違いにつながります。
規制する枠組みが違う
日本の不動産STは、金融商品取引法のもとで有価証券として扱われます。金融の制度の中で規制されている、ということです。
ドバイのトークン化は、不動産の登記を管轄する土地局が主体になり、仮想資産規制庁(VARA)が関わる形です。不動産登記の制度と、仮想資産の制度の両方が関わっています。
どちらも規制のない場所で行われているわけではありません。ただし、拠り所になる法律も、監督する機関も違います。海外の事例を日本の感覚で読むと誤解が生じるのは、この点が理由です。
買える人の範囲が違う
買える人の範囲にも違いがあります。
日本の不動産STは、取り扱っている金融機関を通じて購入します。国内で口座を持てる人であれば、対象になりえます。
ドバイのトークンについては、プラットフォームであるPRYPCO Mint の公式説明で、対象が「UAE residents aged 21+ with a valid Emirates ID」と記載されています。UAEの居住者で、エミレーツIDを持っていることが条件です。非居住者は、不動産のトークンの対象には含まれていません。
土地局も、パイロット段階について「currently available exclusively to UAE ID holders」と説明し、あわせて「set to expand globally in the near future」として将来的な対象拡大に触れています。ただし、その時期は公表されていません。
つまり、日本に住んだままドバイのトークンを買うことは、現時点ではできません。年齢の要件については、公式の案内と配信されたプレスリリースで記載が分かれているため、検討する場合は必ず公式の最新情報を確認してください。
不動産トークンのメリットとして語られること
不動産トークンについて語られる利点を整理します。ここで挙げるのは仕組みとして期待されている点であり、成果を約束するものではありません。
ここでは、3つの視点で解説していきます。
少額から分けて持てる
一括でしか買えなかった不動産を、分割して持てるようになる点です。
ドバイの事例では、土地局の2025年5月の発表で最低投資額が「starting from just AED 2,000」と説明されていました。一方、プラットフォームの案内ページには、より低い金額が記載されている箇所もあります。同じ運営元の中でも記載が分かれているため、実際に検討する場合は最新の公式情報で確認してください。
日本の不動産STの最低金額は、商品ごとに設定されており一律ではありません。
取引の記録が残る
ブロックチェーン上に記録されるため、誰がいつ取得したかという履歴が残ります。
改ざんが絶対に起きないという意味ではありません。記録を分散して保存することで、後から書き換えにくい構造になっている、という理解が正確です。
不動産は取引の頻度が低く、履歴が追いにくい資産です。記録が残る形になること自体が、従来との違いになります。
手続きが速くなる可能性がある
権利の移転をデジタルで処理できるため、従来の不動産取引に比べて手続きが短くなる可能性があります。
ひとつ注意しておきたいのは、先ほど紹介した「1分58秒で完売」という数字は、販売が埋まるまでの速さであって、手続きが完了するまでの速さではないことです。混同されやすい点なので、分けて理解しておくのがよいと思います。
注意しておきたい点
新しい仕組みには、確認しておきたい点もあります。ここでは4つの視点で解説していきます。
いつでも売れるとは限らない
売買できる場所と機会が限られている点です。
日本の不動産STは、取り扱う金融機関を通じて売買します。ドバイのトークンについては、二次流通が始まったのが2026年2月です。どちらも仕組みが動き始めてから日が浅く、売りたいときに買い手が見つかるかどうかは状況によります。
手元の資金にすぐ戻せる前提で考えるのは避けたほうがよい、という性質があります。
価格が下がることもある
裏付けとなっているのは不動産です。その価値が下がれば、トークンの価値も下がります。
デジタル化されたことで値動きがなくなるわけではありません。元本が保証される仕組みでもありません。技術の新しさと、資産としての値動きは別の話です。
制度が新しく変わりうる
日本でも、ドバイでも、制度は整備が進んでいる途中です。
日本では2020年5月の改正で法律上の位置づけが整理され、ドバイでは2025年3月にパイロットが始まり、2026年2月に第2段階へ進みました。どちらも動いている最中です。
この記事に書いた内容は2026年8月時点のものです。実際に検討する際は、その時点の公式情報を確認してください。
日本から買えないものがある
前の章で触れたとおり、ドバイのトークンは現時点でUAEの居住者に対象が限られています。日本に住んだままでは購入できません。
将来的な対象の拡大には公式に言及がありますが、時期は公表されていません。海外の事例を読むときは、その仕組みが自分にとって利用できるものかどうかを、先に確認しておく必要があります。
不動産トークンについてよくある質問
トークンとはどういう意味ですか?
ブロックチェーン上に記録される、権利のデジタルな単位を指します。不動産トークンであれば、記録されているのは不動産に関する権利です。何の権利をデジタル化しているかは仕組みによって異なり、ファンドの持分の場合と、権利証そのものの場合があります。
ブロックチェーンとトークンの違いは何ですか?
ブロックチェーンは記録するための技術で、トークンはその上に記録される権利の単位です。ブロックチェーンが台帳、トークンがそこに書き込まれる項目、と考えると分かりやすいと思います。技術そのものと、技術を使って記録される中身の違いです。
不動産トークンは何のために使うのですか?
大きく2つの目的があります。ひとつは不動産を分割して、少額から持てるようにすること。もうひとつは、権利の移転を記録として残すことです。従来はまとまった資金が必要で、取引の履歴も追いにくかった不動産を、扱いやすくすることが狙いとされています。
どうやって収益が生まれる仕組みですか?
裏付けとなる不動産から生まれる賃料収入と、売却したときの価格差の2つです。ドバイの事例では、賃料収入の持分を月ごとに受け取る形が案内されています。ただし不動産の価値が下がれば損失が出ることもあり、収益が約束されている仕組みではありません。
日本の不動産STとドバイのトークンは同じものですか?
別のものです。日本の不動産STは不動産ファンドの持分をトークンにしたもので、金融商品取引法上の有価証券として扱われます。ドバイのトークン化は、土地局が発行する権利証そのものを分割したものです。何をデジタル化しているかと、拠り所になる制度が違います。
日本に住んだままドバイのトークンを買えますか?
現時点ではできません。プラットフォームの公式説明では、対象がUAEの居住者でエミレーツIDを持つ人に限られています。土地局も将来的な対象拡大に触れていますが、時期は公表されていません。検討する場合は、必ず公式の最新情報を確認してください。
まとめ|不動産トークンには2つの型がある
不動産トークンと呼ばれるものには、性質の異なる2つの型があります。
- 不動産ファンドの持分をトークンにした型。日本で流通しているのはこちらで、不動産STと呼ばれ、金融商品取引法上の有価証券として扱われる
- 不動産の権利証そのものをトークンにした型。ドバイで2025年3月にパイロットが始まり、2026年2月から再販もできるようになった
- 共通するのは、不動産を分割して持てるようになる点と、取引の記録が残る点
- どちらも制度が動いている最中で、売買できる場所と機会は限られている
- ドバイのトークンは現時点でUAEの居住者に対象が限られており、日本に住んだままでは購入できない
名前が似ているために混同されやすい分野です。何をデジタル化した仕組みなのかを確認すると、情報を読み分けやすくなります。
本記事は制度の解説であり、特定の商品や投資手法をすすめるものではありません。実際の投資判断はご自身の責任で行い、税務や法務に関わる個別の判断については専門家にご相談ください。
※本記事の情報は2026年8月時点のものです。制度は変更される場合があります。
