ドバイ資産の承継では、不動産を個人名義で持ち続けるだけでなく、持株会社(HD)やSPV、信託を組み合わせる方法もあります。
ただし、持株会社を使えば相続税がなくなるわけではありません。日本側のCFC税制や出国税、相続税まで含めて設計する必要があるでしょう。
- 持株会社・SPV・信託の基本的な違い
- ドバイ資産の承継で持株会社を使うメリット
- 日本側で注意したいCFC税制・出国税・相続税
- DIFC Willや信託・財団を組み合わせる際の考え方
本記事では、ドバイ資産の承継で持株会社が必要になる場面と、HD・SPV・信託の使い分けを解説します。
そもそも「持株会社でドバイ資産を持つ」とは?

ドバイ資産の承継では、HD・SPV・信託によって保有や管理の役割が変わります。
ここでは、ドバイ資産の承継で使われるHD・SPV・信託の基本構造を紹介します。
持株会社(HD)は複数資産をまとめて管理するための構造
持株会社(Holding Company)は、複数の資産や子会社をまとめて保有・管理するための親会社です。
ドバイ資産では、HDの下にSPVや事業会社を配置し、その先に各不動産を持たせる構造がよく使われます。
たとえば、親会社としてDIFCまたはADGMにHDを設立し、その下に物件ごとのSPVを配置する形です。
- HD(親会社)
- SPV-A(物件A保有)
- SPV-B(物件B保有)
- 運営会社(賃貸管理・事業運営)
この構造では、相続時に不動産そのものを個別承継するのではなく、HD株式を承継単位にできます。
複数物件を一括で管理しやすくなるため、保有規模が大きい投資家ほど採用される傾向があります。
一方で、HDを設立しても日本側の相続税やCFC税制が消えるわけではありません。
承継手続きの簡素化と、資産管理・統治のしやすさが主な目的になるでしょう。
SPVは物件ごとにリスクを分けるための法人
SPV(Special Purpose Vehicle:特別目的会社)は、特定の物件や事業だけを保有するために設立する法人です。
ドバイ不動産では、1物件につき1SPVを使う構造も珍しくありません。
SPVを分ける理由は、物件ごとのリスク隔離です。
たとえば、ある物件で訴訟や債務問題が発生した場合でも、別SPVで保有している物件へ直接リスクが波及しにくくなります。
売却時もSPV単位で譲渡できるため、ポートフォリオの組み換えを進めやすくなるでしょう。
ただし、SPV数が増えるほど、法人維持費・監査・銀行口座管理・ESR対応などのコストも増加します。
1〜2物件の保有段階では、個人保有の方が管理負担を抑えやすいケースもあります。
信託・財団は「承継先」を管理するための仕組み
HDやSPVが「資産を持つ箱」であるのに対し、信託や財団は「誰に承継するか」を管理するための仕組みです。
たとえば、DIFCトラストでは、信託受託者がHD株式を保有し、受益者として家族を指定します。
これにより、親から子、さらに孫世代まで含めた長期承継を設計できます。
RAK ICCファウンデーション(財団)を使うケースでは、創設者・受益者・評議員を分けながら、資産管理と承継ルールを設定します。
創設者側が一定のコントロール権を維持しやすい点が特徴です。
ただし、日本側では信託・財団の課税関係が複雑になりやすく、案件ごとに税務解釈も変わります。
設計段階から、日本側税理士とUAE側専門家を含めて進めることが欠かせません。
持株会社でドバイ資産を持つメリット

持株会社は、複数資産を承継・管理するために使われる保有スキームです。
ここでは、ドバイ資産を持株会社で保有する主なメリットを解説します。
複数資産を株式単位で承継できる
複数のドバイ不動産を個人名義で保有している場合、相続発生時には物件ごとに名義変更や契約承継を進める必要があります。
DLD(ドバイ土地局)の登記変更、銀行口座の変更、テナント契約の引き継ぎなどが物件単位で発生するため、保有数が増えるほど相続人側の負担も重くなります。
持株会社を使う場合は、不動産そのものではなくHD株式を承継単位にできます。
相続人はHD株式を引き継ぐことで、その背後にある複数物件をまとめて承継する形です。
相続時の実務を簡素化しやすく、複数相続人がいるケースでも持分割合を調整しやすくなります。
物件単位で分けるより、株式単位で分割した方が管理権限も分けやすいでしょう。
株式を段階的に移転しやすい
個別不動産を生前贈与する場合、共有持分の管理や売却判断が複雑になりやすく、実務負担も重くなります。
一方、持株会社を使えば、HD株式を少しずつ移転できます。
- 60代で株式20%を移転
- 70代で追加20%を移転
- 残りを相続時に承継
このように、段階的な承継計画を組みめるでしょう。
経営権を残しながら資産移転を進められるため、ファミリーオフィス型の資産管理とも相性が良い保有方法です。
ただし、日本側では贈与税・相続税・株式評価の問題が発生するため、税理士を含めた設計が欠かせません。
物件ごとのリスクを分けて管理できる
HDの下に物件別SPVを配置すると、リスクを法人単位で分離できます。
たとえば、SPV-A保有物件で訴訟や債務問題が発生しても、SPV-B保有物件へ直接影響しにくくなります。
単一法人で全物件を保有する形より、リスク管理を進めやすい点が特徴です。
また、売却時もSPV単位で処分できるため、物件ポートフォリオを入れ替えやすくなります。
3〜5件以上の物件を保有する段階では、こうしたリスク隔離と売却柔軟性のメリットが大きくなりやすいです。
一方で、SPV数が増えるほど維持コストや監査負担も増加するため、保有規模とのバランスを見る必要があるでしょう。
統治構造を作りやすい
持株会社は、単なる保有法人ではなく、家族資産の統治体制を作る役割も持ちます。
HDレベルで取締役会や承認フローを設計すると、創業者個人の判断だけで運営する状態から、組織的な管理体制へ移行できます。
- 経営に関わる家族は議決権を持つ
- 経営に関わらない家族は配当のみ受け取る
- 売却判断はHD取締役会で決議する
このように、資産保有と経営権を分けた設計も可能です。
この仕組みは、複数世代にまたがる資産承継で効果を発揮します。
特に10億円超のポートフォリオでは、「誰が保有するか」だけでなく、「誰が意思決定するか」まで含めた設計が重要になるでしょう。
日本側で注意したい税務

ドバイで持株会社を設立しても、日本居住者には日本側の課税が残ります。
ここでは、持株会社スキームで特に確認したいCFC税制・出国税・相続税を解説します。
CFC税制で日本側に合算課税される場合がある
日本居住者がドバイ法人を支配している場合、CFC税制(外国子会社合算税制)の対象になる可能性があります。
UAE法人税率は9%で、日本のCFC税制が基準とする20%未満に該当するためです。一定要件を満たさない場合、ドバイ法人の利益を日本側株主の所得へ合算し、日本で課税されます。
特に持株会社は、「株式を保有するだけの法人」と見られやすく、事業実態が弱いと判断されやすい点に注意が必要です。
- UAEで取締役会を開催しているか
- UAEにオフィスを持っているか
- 現地で意思決定しているか
- 現地スタッフを配置しているか
こうした実体性が不足すると、日本側で「実質的には日本管理」と判断されるリスクが高まります。
単にドバイ法人を作るだけでは、UAE側の低税率メリットをそのまま使えるわけではありません。持株会社を使う場合は、日本側税務を前提に設計する必要があるでしょう。
【関連記事】CFC税制とドバイ法人の関係|日本居住者が知っておく基礎知識を解説
出国税の対象になるケースがある
持株会社スキームを作ったあとにドバイ移住を進める場合、出国税(国外転出時課税)も重要です。
出国税は、1億円以上の有価証券などを保有する人が日本を離れる際、含み益へ課税する制度です。HD株式も対象資産に含まれます。
たとえば、ドバイ不動産をHDへ集約し、その後に日本非居住化を進める場合、株式価値が上がっていれば出国税の対象になるでしょう。
- HD株式の時価評価
- 含み益の計算
- 納税猶予制度の利用
- 出国時期の調整
これらを事前に確認せず移住を進めると、想定外の税負担につながるため注意してください。
また、納税猶予制度を利用しても、将来的な売却・贈与・相続で課税が確定するケースもあります。
移住計画と承継設計は分けず、一体で考えることが重要でしょう。
【関連記事】ドバイ移住で出国税はどうなる?日本側に残る課税と非居住者判定
持株会社でも日本の相続税は残る
ドバイに持株会社を設立しても、日本居住者には日本の相続税が課税されます。
日本では、被相続人または相続人が日本居住者である場合、世界中の財産が相続税対象になります。
ドバイ不動産だけでなく、HD株式も課税対象です。
そのため、
- ドバイ不動産をHDで保有する
- SPVを複数作る
- UAEで信託・財団を設立する
といった構造だけで、日本の相続税がなくなるわけではありません。
持株会社の主な役割は、承継手続きの簡素化や管理体制の統一です。
税額そのものを大きく下げる目的とは分けて考えた方が、実際の運用イメージに近くなります。
特に、「ドバイ法人を使えば相続税対策になる」という説明だけで設計を進めると、日本側課税とのズレが生じやすいため注意してください。
【関連記事】ドバイの不動産を相続した場合の日本側課税と資産承継の考え方
UAE側で注意したい法人税・実体要件・口座管理

持株会社を使う場合は、日本側だけでなくUAE側の維持管理も確認が必要です。
ここでは、UAE法人税・実体要件・銀行口座管理の注意点を解説します。
UAE法人税9%は不動産収入にも関係する
UAEでは2023年6月から法人税が導入され、一定額を超える課税所得には9%の法人税がかかります。
フリーゾーン法人であっても、すべての所得が0%になるわけではありません。
特に、UAE国内の不動産から生じる賃料収入や売却益は、フリーゾーン適格所得として扱われにくい点に注意してください。
- UAE国内不動産の賃料収入
- UAE国内不動産の売却益
- 持株会社が受け取る配当
- SPV間の資金移動
これらは、法人税や参加免税の要件を個別に確認する必要があります。
持株会社を作れば、UAE側で完全に無税になる、という理解は正確ではありません。
税率だけで判断せず、どの所得がどの法人に帰属するのかまで確認してください。
実体要件を満たすための管理体制が必要になる
持株会社をUAEで維持する場合、実体のない法人と見なされないように管理体制を整える必要があります。
形式だけの法人では、日本側のCFC税制だけでなく、UAE側の経済実体規制でも問題になるでしょう。
特に、持株会社業はESR(Economic Substance Regulations:経済実体規制)の対象に含まれます。
毎年の報告や、現地での意思決定を示す記録が重要です。
- UAE内で取締役会を開催する
- 議事録や決議書を保管する
- 法人の登録住所やオフィスを確保する
- 会計・監査・年次申告を継続する
こうした記録は、UAE側の規制対応だけでなく、日本側で管理支配地を説明する材料にもなります。
持株会社を設立したあとに運営実態を残さないと、税務上の説明が難しくなります。
設立時だけでなく、毎年の管理コストまで含めて見ておきましょう。
銀行口座の開設・維持には時間がかかる
UAEで持株会社を使う場合、銀行口座の開設と維持も大きな実務負担です。
特に、持株会社は事業実態が薄く見られやすいため、AML(マネーロンダリング対策)審査で追加資料が必要になるケースもみられます。
銀行からは、資金源や事業目的を示す資料を求められます。
- 株主・実質的支配者の情報
- 資金源を示す資料
- 事業計画書
- 既存口座の取引明細
- 保有予定資産の資料
設立直後の法人で大口資金を動かす場合、審査に時間がかかると考えてください。
口座開設後も、取引内容や資金移動について追加確認を受ける場面があります。
持株会社スキームは、相続が近づいてから短期間で作るより、時間に余裕を持って準備する方が運用に乗せやすいです。
法人設立、口座開設、資金移動、不動産取得までの期間を逆算して進めましょう。
承継スキーム別|DIFC Will・信託・財団の使い分け

ドバイ資産の承継では、持株会社だけで完結しないケースもあります。
ここでは、DIFC Will・信託・財団を組み合わせる際の特徴を解説します。
DIFC Willは比較的導入しやすい承継方法
DIFC Will(DIFC Wills Service Centre)は、UAEの非ムスリム外国人向けの遺言登録制度です。
UAE側の相続手続きを本国法ベースで進めやすくなるため、ドバイ不動産の承継でよく使われています。
特に、個人名義で不動産を保有している場合は、DIFC Willだけで承継実務を簡素化できるケースもあります。
- 不動産の承継先を指定できる
- UAE側の相続手続きを進めやすくなる
- HD株式の承継先も指定できる
- 比較的短期間で導入しやすい
HDや信託を組み合わせなくても使えるため、資産規模1〜3億円程度では、DIFC Willを中心に承継設計を進めるケースもあります。
一方で、日本側の相続税まで調整できる制度ではありません。
あくまでUAE側の承継実務を進めやすくする仕組みとして考える必要があるでしょう。
信託は世代をまたぐ承継設計に向いている
資産規模が大きくなると、DIFCトラスト(信託)を使うケースも出てきます。
信託では、受託者がHD株式を保有し、家族を受益者として指定します。
親から子だけでなく、孫世代まで含めた承継設計を組みやすい点が特徴です。
- 受益者を複数世代で指定できる
- HD株式をまとめて管理できる
- 相続発生後も管理体制を維持しやすい
- 家族ごとに利益配分を調整できる
ファミリーオフィス型の資産管理では、信託を通じて承継ルールを固定するケースもあります。
ただし、日本側では信託課税の解釈が複雑になりやすく、受益者課税・委託者課税などの確認が必要です。
UAE側だけで設計を進めず、日本の税理士や弁護士も含めて確認してください。
財団は創設者側の管理権限を残しやすい
RAK ICCファウンデーション(財団)は、信託に近い役割を持つ承継ビークルです。
信託と違い、法人格を持つ点が特徴になります。
財団では、
- 創設者
- 受益者
- 評議員(カウンシル)
を分けながら運営します。
信託より創設者側の関与を残しやすいため、「承継準備を進めながら一定の管理権限も維持したい」というケースで使われています。
また、HDの上に財団を置き、その下にSPV群を配置する形もあります。
複数世代の資産管理を一体で進める場合には、こうした多層構造を使うケースもあるでしょう。
一方で、日本側では財団の税務解釈が安定しているとは言い切れません。
判例や通達も限られているため、採用時は最新の税務実務を確認する必要があります。
資産規模別|持株会社スキームを使う目安

持株会社スキームは、資産規模に応じて複雑さを調整することが重要です。
ここでは、資産規模ごとの承継スキームの考え方を紹介します。
1〜3億円規模ではDIFC Will中心になりやすい
ドバイ不動産を1〜2件保有する段階では、HDや信託まで組み込まないケースも多く見られます。
この規模では、DIFC Willを使い、UAE側の承継手続きを簡素化する方法が候補になります。
- 個人名義で保有する
- DIFC Willで承継先を指定する
- UAE側の相続実務を簡素化する
持株会社を設立すると、法人維持費・監査・口座管理などの固定費が毎年発生します。
資産規模が小さい段階では、維持コストがメリットを上回りにくいでしょう。
相続人が少なく、保有物件数も限られている場合は、個人保有とDIFC Willの組み合わせだけで対応できるケースもあります。
10億円超では信託・財団まで組み合わせるケースがある
資産規模が10億円を超えると、信託や財団を含めた多層型スキームを使うケースも出てきます。
代表的な構成は以下のとおりです。
- 信託・財団
- HD(持株会社)
- 複数SPV
- 各不動産・事業会社
この規模では、単なる不動産保有ではなく、ファミリー全体の資産統治が主な目的です。
「誰が意思決定するか」「どの世代へ利益を分配するか」まで、決めておく必要があります。
また、海外資産だけでなく、日本国内法人・金融資産・事業承継も含めて設計する場面もあるでしょう。
ただし、多層化するほど維持コスト・監査・税務対応は重くなります。
HDや信託を増やせば有利になるわけではありません。
資産規模と管理体制に合うスキームかどうかを、税務・法務の両面から確認してください。
持株会社でドバイ資産を持つ際のよくある質問

ここでは、持株会社でドバイ資産を持つ際によくある質問を紹介します。
Q1. 日本の持株会社からドバイ不動産を直接買えますか?
DIFC Willだけで対応できるケースもあります。
ドバイ不動産が1〜2件で、相続人も限られている場合は、HDや信託を使わず、DIFC Willで承継先を指定する方法が使えます。
ただし、複数物件や複数相続人を前提にするなら、株式単位で管理できるHDの方が扱いやすい場面もあります。
Q2. 日本居住者でも承継できますか?
相続人が日本居住者でも、ドバイ資産の承継自体は可能です。
ただし、日本居住者が相続する場合は、日本の相続税の対象になります。
UAE側の承継手続きと、日本側の申告・納税は別に進める必要があるため、両国の専門家に確認してください。
Q3. 複数の子どもに資産は分けられますか?
複数の子どもに承継する場合、物件ごとに分ける方法と、HD株式を割合で分ける方法があります。
共有名義で不動産を持つと、売却や賃貸方針で意見が割れやすくなります。
複数相続人がいる場合は、HD株式で割合を決める方が管理しやすいでしょう。
Q4. 後からスキーム変更できますか?
保有中にSPVを追加したり、HDの上に信託・財団を組み合わせたりする変更は可能です。
ただし、資産移転には登記費用、税務処理、銀行審査が発生します。
後から変更するほど手続きが増えるため、将来の物件追加や承継先まで含めて早めに設計してください。
まとめ|持株会社は承継と管理のために使う

ドバイ資産の承継では、持株会社(HD)・SPV・信託を組み合わせると、複数物件を株式単位で管理しやすくなります。
相続人が複数いる場合や、将来的に物件数を増やす場合は、個人保有よりも承継手続きや管理権限を分けやすいでしょう。
一方で、持株会社を使っても日本の相続税がなくなるわけではありません。
CFC税制、出国税、UAE法人税、実体要件、銀行口座管理まで含めて設計する必要があります。
資産規模が小さい段階ではDIFC Will中心、複数物件を保有する段階ではHD+SPV、さらに大きな資産承継では信託・財団を組み合わせる方法もあります。
節税効果だけで判断せず、誰が管理し、誰へ承継し、どの体制で運用を続けるかを確認してください。





